遺言で不動産を相続したらすぐに登記を! 改正相続法で「相続させる」の効力が弱くなりました。

改正相続法については、配偶者居住権が大きく取り上げられていますが、それ以外にもいくつか重要な変更があります。今回は「相続させる旨の遺言」の効力について解説いたします。

今回の相続法改正は約40年ぶりの大幅な見直しがされています。その中でも、相続させる遺言の効力については、保護される対象者が変わっています。

遺言で相続したからと以前の考えで登記せずにいると、他人に取られてしまうことも起こり得ます。

FPJP編集部

相続登記の現状

不動産の所有者が死亡した後、遺言や遺産分割協議により相続人に所有権が移動します。そして、登記簿の名義を被相続人から、所有者となった相続人に変更することを相続登記と言います。

この相続登記には期限が決められていません。やらなくても罰則もありません。「相続登記をしてください。」という案内もありません。

さらに、登記をすると登録免許税や司法書士の報酬などの費用が発生しますし、手続きも面倒です。

結果、そのままほっとく例が多いのです。明治時代の登記のままという不動産も多数存在します。登記簿上は、江戸時代生まれの所有者ということも珍しくありません。

相続登記のポイント

「○○に相続させる」という遺言で相続する者が指定されていた場合には、相続した者が単独で相続登記することができます。

遺言が無い場合は、遺産分割協議で取得する相続人を決定し、遺産分割協議書を作成すれば相続登記ができます。遺産分割協議書には、法定相続人全員の署名、押印が必要です。相続人全員の合意が形成できなければ、遺産分割協議書は作れません。遺産分割協議書の作成までした場合は、相続登記まで進むことが多いようです。

遺言が無い場合で、何の争いもなく相続人の一人が不動産を占有し続け、遺産分割も登記もしないということが良くあります。親と同居していた長男夫婦がそのまま住み続けるようなパターンです。この場合、相続人は長男夫婦が相続したものと認識していますが、法律上は法定相続人の共有状態となっています。いざ、売却したいという場合には、遺産分割協議書を作成し相続登記を経なければできません。

遺産分割協議で合意できない間は、不動産は法定相続人全員による共有となります。この状態のまま放置されると、登記簿上は故人が所有者のままということになります。

共有状態でも自分の法定相続分を処分することは可能です。自分の相続分を担保にして融資を受けることなどもできますが、そのためには相続分を登記しなくてはなりません。

法定相続分による共有状態を登記することは可能です。この場合は、共同相続人のうちの1人が単独で申請することも可能です。1人の判断で他の法定相続人の同意を得ずに共有名義の登記をしてしまうことができるのです。

改正前の遺言による相続の効力

「相続させる旨の遺言等により承継された財産については、登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができる。」とされていました。

つまり「土地、建物を○○に相続させる。」という内容の有効な遺言がある場合、何もしなくても相続発生時点で指定された相続人が所有者になっている。

もし、他の法定相続人の債権者(第三者)などが、法定相続分による登記をして債務者相続人の相続分を差し押さえたとしても、遺言により相続した者は自分の所有であることを主張できるということです。

遺言により相続した相続人以外の相続人は、その財産に対しては相続しないので無権利者です。無権利者から差し押さえた者も無権利者になるという理屈です。

不動産の登記には、それを信用して取引した者が保護される「公信力」はありませんので、間違った登記を根拠に差し押さえをした債権者は保護されないのです。

しかし、遺産分割協議ができるまでは法定相続分により共有となり、各相続人は自分の相続分を処分することは適法な行為ですので、遺言があることを知らない第三者にとってはこの制度は酷です。

「遺言で相続したならすぐに登記しとけ!」と叫びたくなります。でも、相続登記に期限はありませんし、しなくても罰則もないのです。

これまでは、遺言により不動産を相続した者は、登記をしていなくても万一の時には所有権を主張できるので安心でした。

FPJP編集部

改正後の遺言による相続の効力

「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することはできない。」となりました。

つまり「土地、建物を○○に相続させる。」という内容の有効な遺言がある場合でも、相続登記で所有権を公示しない場合には、法定相続分を超える部分の所有権は主張できないということです。

改正相続法は、施行日がいくつかに分かれていますが、この部分は令和元年7月1日施行となります。この日以降は、法定相続分を超える部分は、登記をしなければ所有権を主張できなくなります。

遺言により不動産を取得した方で、相続登記を済ませていない方は、早急に登記をした方がよいでしょう。

登記簿上の名義人の法定相続人に借金があると、債権者から相続分を差し押さえられるかもしれません。

FPJP編集部

 


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