所有者不明土地はなぜ生まれる

深刻な問題となっている「所有者不明土地」について解説したいと思います。

宿輪

所有者不明土地とは?その現状が厳しい。

2017年11月に発表された不明土地研究会(座長-増田寛也元総相)の予測によると、2040年の所有者不明土地の面積は現在の410万haから720万haに増え、北海道の面積に匹敵します。

所有者不明土地とは、登記簿ではすぐに所有者が判明しない土地や所有者が確定できても、容易に連絡が付かない土地の事を言います。

例えば、土地を売り買いするときには、当然所有者が当事者となりハンコを押すわけですが、所有者不明の場合、それができないので売買ができないことになります。「凍結した土地」ということです。
公共事業の場面でも、所有者不明土地によって用地取得が難しくなっています。2011年の東日本大震災後の復興事業にも大きな影響がありました。

所有者不明土地の上に所有者不明の空き家がある場合、空き家特措法を使って危険な空き家を解体しても、その解体費用を徴収するのは困難で、結局は国民の負担となってしまいます。

相続により所有者が変わる時に問題は起こる

不動産は、法務局で登記することにより権利関係を明らかにします。

例えば、売買契約をするときは、登記簿謄本で所有者を確認してすることになります。そして、売買契約を結んだ後、契約に沿って代金を支払い登記簿の所有者を変更します。所有権が変更された登記簿を取得して、正式に購入者のものになったと確認できるのです。

所有者が変われば、登記簿の表示も変わるので所有者が不明になることは無いようにも思えますが、どういうことなのでしょうか。

問題は、相続により所有者が変わる場合です。通常の売買では、不動産業者などが介在し仕事として登記まで完了させますが、相続の場合は違います。

相続登記が行われない理由

売買契約の場合、代金の支払いと登記簿の変更は同時にするのが原則です。
ですから、代金を支払うと即日登記申請がされます。
相続の場合も、遺産分割協議で誰が不動産を取得するか決めて、相続登記をしなければなりません。しかし、相続の場合登記に期限がありません。実際、登記の制度が始まった明治時代からそのままの登記簿もたくさんあります。登記簿上は「所有者は江戸時代生まれ」ということになります。

こうなるには、理由があります。

理由① 費用が掛かる

登録免許税(相続の場合0.4%)+司法書士報酬が必要になります。
課税評価額5000万円の場合、登録免許税は20万円。

理由② 手続きが面倒

遺言が無い場合、相続人全員の署名押印のある遺産分割協議書を作成。

理由③ とくに支障がない

登記をしなくても、今まで通り使える。

理由④ 何も言われない

相続登記をしなさいなどという督促もありません。

売買と違い相続の場合専門家が介在しませんので、当事者に相続登記をしなければならないという認識が無いのです。更に、面倒でお金もかかるわけですから、登記簿の変更がされないまま放置されることになります。

放置されるとどうなるのでしょうか。

知らない間に知らない人が共同所有者になっている

故人名義の不動産は、法定相続人全員の共同所有となります。その共有者が亡くなるとその相続人が共有者に加わります。これを何代か続けると、全く面識もない人が共同所有者となり、所有者不明状態となってしまいます。
所有者不明となって困るのは、売買等をしようとしたときです。共有者全員が協力して何代分もの遺産分割協議書を作成し、全員の署名と実印が必要です。これを揃えない限り所有権の移転は出来ません。面識もなく、連絡先も知らない共同所有者に事情を説明し、登記の協力を依頼しなければなりません。これを諦めると、どうにも処分ができない「所有者不明土地」が生まれるのです。

面識ない共有者の例

昭和60年の相続発生時、自宅は父を介護して同居していた
長女Aが相続することでBさんと口頭合意していました。
(当時の共有者(=法定相続人)は、AさんとBさんの二人)

相続発生時にAさんとBさんで「遺産分割協議書」を作れば、相続登記は簡単でした。

しかし、相続登記をしなくても、「相続登記をしなさい」と督促はありません。
固定資産税も、これまで通り通知があります。
長女が住んでいるうちは、何の支障もありません。
登記をするには、登録免許税や専門家への報酬支払いも発生します。
Aさんは、登記はそのままで住み続けました。

長男のBさんが平成15年に、Bさんの妻が平成20年に亡くなりました。Bさん夫婦には子供がいませんでしたので、Bさんの相続財産はまず妻に相続され、妻の死亡時に兄弟のCさん、Dさんに相続されます。

平成30年、Bさんの子供は東京で暮らしています。一人暮らしをしていたBさんも高齢で、介護が必要になってきたため、施設に入居しようと思います。自宅は、誰も住む人がいなくなるので、処分して施設の費用に充てようと考えました。

登記簿の所有者は亡父ですが、現在はAさんとBさんの妻の兄弟Cさん・Dさんが共同所有者となっています。Aさん、Cさん、Dさんの三人で遺産分割協議書を作らないと相続登記ができません。
しかし、AさんはCさんDさんとは面識がありません。名前も知りませんし、どこに住んでいるのかもわかりません。戸籍を見ればわかるかと思い役所に問い合わせてみましたが「直系血族以外は委任状が無いと交付できません。」と言われてしまいました。

結局Aさんは、登記を諦めてしまいました。

お父さんが亡くなったとき、少しの費用をかけて相続登記を完了していればと悔やまれ
ます。

誰もが共同所有者の可能性あり

上の例で、CさんDさんの立場になってみてください。自分が姉の夫の父親名義の不動産の所有者になっているなんてことは全く知らないでしょう。このように、所有者不明土地の所有者は、自分が所有者になっていることを知らないのです。これが所有者不明土地の難しさです。例えば曾祖父名義の不動産があった場合、親が亡くなった時点で自分もその不動産の共有者になってしまうのです。
昔は兄弟が多かったので、とんでもない数の共有土地もあります。道路整備のため収容予定の土地一筆の共有者が500人という例もありました。

まとめ

相続手続きには法的期限がなく、罰則も督促もありません。
そのため、手続き不能となるまで放置される事例が増えていますので、相続が発生したら必ず相続登記を行うようにご注意ください。

宿輪

政府も、今後所有者不明土地の活用などにこれから対策を打つ予定ですが、相続が発生したら相続登記を早急に終わらせることが一番大事です。

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