人生後半のイベントに備えるシリーズ第5回「 がんに備える」

約30年前から、がんが日本人の死亡原因の1位になっています。亡くなっている方の約3割ががんが原因です。また、一生のうち一度以上がんにかかる方は男性の62%、女性の46%であるという調査もあります。「日本人は半分ががんにかかり、三分の一ががんで亡くなる」と言われてもいます。

今回は、がんに備えると題してがんについてと支援制度について解説します。

がんについて ~発見から治療まで~

がんは早期発見が大切

「がんは珍しい病気で治らない。」と考える方がいます。また、がん検査で異常が出ても、不安に思って精密検査を受けない方もいます。ですが昔と違い、現在はがんと診断されても早期がんなら8割以上の方が治っています。早期に発見し、早期のうちに治療を終わらせることが出来るよう検診はしっかり受けるようにしましょう。

ただし、現在国が推奨しているガン検査は「胃」「肺」「大腸」「乳房」「子宮頸部」の5ヶ所だけですので注意が必要です。これらの検査は人間ドックや市区町村が行っているがん検診などで受ける事が可能です。

病院の探し方と正しい知識の得方

各病院のホームページには、がん治療の実績、所属している医師の情報、治療方針や患者と家族へのケアなどについて掲載していることが多いですので、参考にすることが出来ます。また、国立がん研究センターが運営している「がん情報サービス」を利用することも可能です。

がんについて、インターネットに様々な情報があふれています。たくさん情報があるだけに、不安を感じたり惑わされたりすることがあります。口コミや専門家の意見は、信頼性レベルが低いものですので注意しましょう。

医学論文や診療ガイドライン等から出ている情報は信頼度が高いと言えます。また、「がん情報サービス」には、「ガンになったら手に取るガイド」等に加え、がんの種類ごとに冊子が用意されて公開されているので、より正しい知識を得る事が可能です。”がん診療連携拠点病院”にある「がん相談支援センター」でも冊子の入手が可能です。

色々な治療

がんは、通常医療機関では「標準治療」と呼ばれる治療を行います。”標準”と言いますが、現時点で最良・最善の治療を言います。

それに対し、「先端医療」と呼ばれる治療があります。これは効果や安全性に十分な評価がまだ定まっていない新しい技術のことを言います。安全性と効果が認められれば標準治療となりますが、すべてがそうなるとも限りませんので注意が必要ですし、過度な期待は禁物です。

主治医の診断に納得がいかない場合に他の医師にセカンドオピニオンを求めることも、最近は肯定的に捉えられつつあります。主治医にセカンドオピニオンを受ける旨伝えて、紹介状を書いてもらうこともできます。紹介状を書いてもらうと、既に受けた検査を再度で受けることがなくなり体力的にも負担が減ります。

また、健康食品やサプリメント、代替療法や民間療法には科学的に効果が証明されたものはありません。一般的に気休め程度に過ぎず、逆に有害であるものもありますので、利用する前に必ず主治医に相談してください。

がん治療を支援する制度

がん治療にはいくらかかるか

がんの種類や治療内容によってかかるお金は異なりますので一概に言えませんが、実際にがんにかかった方やご家族へのアンケートによると、一番かかった1年間の医療費(自己負担額)は平均115万円となっています。
ただし、回答者の6割は100万円未満と回答していますので、とりあえず100万円あれば当座をしのげると言えます。

がんと闘うときに役立つ制度

日本には、がんと闘うときに役立つ医療費を軽減する制度や、仕事を休んだりしたときに給付を受けられる制度などが以下の表のようにあります。

制度名 仕組みの概要 詳細
高額療養費制度 医療費負担の月額上限 1ヵ月当たりの医療費が、所定の額を超えた場合に超過額が返戻される
付加給付 保険給付に上乗せ 健康保険組合によっては、独自の基準を持ち返戻に上乗せされる
医療費控除 所得税などが戻る 家族を含めて1年間に払った医療費が一定額を超えた場合に所得税などが払戻される
傷病手当金 仕事を休んだ時に給付 業務外の病気などで連続4日以上休んで給与の支給がない場合に給付される
障害年金 障害が残ったときに給付 要件を満たす障害が残ったときに給付される
介護休業給付金 家族の介護で働けない時 介護が必要な家族を休業して介護するときに93日分を上限に支給

各制度のうち一部について、以下に説明をします。

医療費に対する支援

健康保険の医療費自己負担割合は3割です。がんになると治療に高額な医療費がかかることが多いです。この高額な医療費負担に一定の上限を設けているのが、高額医療費制度です。本人の月給により自己負担の上限額が以下の通り定められています。

月給(標準報酬月額) 自己負担限度額 多数該当
81万円以上 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% 140,100円
51万5千円以上81万円未満 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% 93,000円
27万円以上51万5千円未満 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% 44,400円
27万円未満 57,600円 44,400円
住民税非課税など 35,400円 24,600円

なお、「多数該当」とは過去12ヵ月以内に3回以上自己負担限度額に達している場合に、4回目から適用される上限額です。

月収40万円の方で総医療費が150万円かかったときを例にすると、この場合は高額医療費制度が適用されます。
通常はまず医療機関の窓口で3割相当額である45万円を負担します。その後高額療養費のうち自己負担額は、
80,100円 + (150万円-267,000円) × 1% = 92,430 円
と計算されますので、45万円との差額の 357,570円 が払戻されることになります。

最終的に払戻があるとは言え、当初は窓口で3割負担することが必要になります。この負担を避けるために、特に医療費がかかることが見込まれる入院をすることが判明した時点で、あらかじめ健康保険に「限度額適用認定証」を申請して交付を受けておくことをお勧めします。医療機関に限度額適用認定証を提出すると、負担額が自己負担限度額までになります。

健康保険組合によっては、上記自己負担限度額に加えて付加給付を設定している場合もあります。
この制度の適用を受けると、各健康保険組合で設定している額(2万円など)以上の負担した場合は高額医療費制度の適用をして返戻をし、さらに設定している額との差額を付加給付として受け取ることが出来ます。

税金が戻ることがあります

毎年1月から12月までの1年間で、医療費の合計額が10万円または年収の5%のうち少ない方の額以上になった場合は確定申告で医療費控除を申請でき、所得税と住民税を減らすことが出来ます。

医療費控除は医療機関に支払った医療費だけでなく、薬局に支払った薬代、通院にかかった交通費(タクシー代は緊急時等のみ対象)も加えることが出来ます。また、通常は人間ドック等の費用は医療費控除に加えられないのですが、病気が見つかった場合は、人間ドックの費用を医療費控除に加えることが出来ます。
家計が一つならば、家族の分も一緒に計算することも可能です。領収証は少額でも必ず保管するようにしましょう。

確定申告は、国税庁のホームページで申告書が簡単に作成できるようになっています。完成した申請書を印刷し、領収証を添付して最寄りの税務署に提出すれば終了ですので比較的簡単にできます。

仕事を休んだ場合

会社の健康保険に加入している方ならば、正社員だけでなく非正規雇用の場合でも、連続して3日間休んだ後の4日目から最長1年6ヶ月の間「傷病手当金」が支給されます。なお、「連続して3日間休んだ」には、有給休暇、土曜日曜や祝日のため休んだ場合も含みます。

休む前の月給を45で割った額(正確には「支給開始日以前12ヶ月間の標準報酬月額の平均額を30で割り10円未満を四捨五入した額に、さらに3分の2をかけ小数点未満を四捨五入した額」)が傷病手当金の1日当たりの支給額になります。

会社によっては、社員が病気等で働けなくなり休職をした時でも、一定期間は給与の一部を支給する決まりがあるところがあります。このような場合は、給与のほうが傷病手当金より少額ならばその差額が支給されます。

がん保険は必要か

今まで見た通り、がんの治療にはお金がかかります。そのためがん保険の加入を考えますが、まずはどのように考えたらよいでしょうか。

健康保険に加入している方ならば高額医療費制度や傷病手当金など手厚い保障があります。このような方ならば、別途がん保険に入る必要性は低くなります。逆に自営業者の方等は、入院すると収入が減ってしまうリスクが考えられるのでがん保険に入る必要性は増してきます。

とは言え、前述した通り医療費としてかかる金額は100万円程度です。そのため、「預貯金が200万円ある」ような方については保険に入る必要性は低く、さらに子育てなどが終わっているため教育費などの大きな出費が将来見込まれない場合は、がん保険に入る必要性はほぼ無いと言えます。

それでもがん保険に入る場合は、残念ながら転移や再発が起きた場合でも給付金が支払われる保険を選んでおくと安心です。


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