人生後半のイベントに備えるシリーズ第3回「定年時の雇用保険」

ライフイベントについてシリーズでお届けしています。
第3回は「定年時の雇用保険」です。

FP中根

定年を迎える前の会社員時代は、必要な手続きを会社が行ってくれていました。ですが、退職して会社から離れると全ての手続きを自分でする必要があります。
必要な手続きをしないために、もらえるはずのお金がもらえないという事もあり得ます。

ここでは失業をしたときに生活の安定を図る給付を行うことが大きな目的である雇用保険について、定年を迎えた後の働き方によってどのような手続きをするのか、そしてそれぞれの手続きでどれくらい給付があるかを解説します。

雇用保険のしくみ

そもそも「雇用保険」とは何か

雇用保険は、労働者が失業等をした場合に、生活の安定や再就職促進を図るために給付等をするために加入する保険(社会保険)です。

雇用保険の中で皆さんに良く知られているものは、仕事を辞めたときに給付される「基本手当」でしょう。厳密にいえば正しい呼び名ではありませんが、”失業給付”という名前の方が耳馴染みがある方もいるかもしれません。
この基本手当の他にも生活・雇用の安定や就職の促進のために支給される様々な給付があります。

また、雇用保険は失業したときに備えるだけでなく、現在は労働者の雇用機会の増大や能力開発・向上を助けるためにも使われています。
公共職業訓練や、教育訓練給付金などが例として挙げられます。

さらに、お子さんを出産された後の育児休業期間の給付も雇用保険からなされています。(ちなみに産前産後休暇の間については、健康保険から給付がなされています。)

「雇用保険」に加入するためには

雇用保険は労働者なら誰でも入れるというものではありません。雇用保険に加入するためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。

  1. 継続して最低31日以上働く見込みがある
    雇用保険に加入しない事を避けるため、31日間以上労働契約期間がないため雇用が継続しないことが明確である場合以外すべてが該当します。
    また契約が無くても、実績として実際に31日以上働いた場合も該当します。
  2. 1週間当たり20時間以上働く
    これは、契約した労働時間が週20時間以上である事を言います。業務多忙の対応をしたため週20時間以上働いた場合等は該当しません。
  3. 学生でない
    原則として学生は雇用保険に加入できません。
    例外は夜間制・定時制・通信制等の学生である場合か、内定をもらった企業に卒業前から勤務し、卒業後も勤務を続けることが明らかである場合です。

会社員を続ける働き方の場合

同じ会社で定年前後も働く場合

この場合はもといた会社で定年前後も働き続けるので失業期間ありません。そのため「基本手当」の給付対象にはなりません。

ですが、60歳前後で条件の変更があり基本給が75%未満になった場合は、原則として60歳に達した月から65歳に達する月まで「高年齢雇用継続基本給付金」の支給を受けることができます。この給付金の支給額は、各月の賃金が60歳時点の賃金に比べてどれくらい低下したかによって決まります。

  1. 61%以下に低下した場合
    各月の賃金の15%が支給されます。
  2. 61%超75%未満の場合
    低下率に応じて賃金の15%まで額が支給されます。
  3. 75%以上の場合
    低下が少ないので支給はありません。

60歳時点での賃金が 月40万円だった方が、再雇用により賃金が 月24万円になった場合を例に考えます。

この例の場合低下した割合は、24万円÷40万円×100 と計算し、60% となります。61%以下ですので上記のi. に該当します。
給付金は新しい賃金 24万円 の15% である月額 3万6千円 になります。

なお、低下した後の賃金が一定額(2019年1月現在 359,900円)以上である場合は、賃金が高額であるため給付金の支給はありません。

高年齢雇用継続基本給付金に関する手続きは、賃金に関する証明が必要なため会社が行う事になっています。
「給付金を受けられるのでは?」と思ったら会社の担当に申し出て確認を取る事が必要です。

定年退職した直後に他の会社に移って働く場合

他の会社に移って働く場合についても、勤めている会社は変わりますが定年前後も続けて働き続ける事になります。

失業期間はありませんので「基本手当」の給付はありません。賃金が下がった場合は高年齢雇用継続基本給付金の対象となります。
前述した「同じ会社で定年前後も働く場合」とほぼ同じ流れになります。ただし、退職前後の賃金の証明が必要になるため二つの会社にそれぞれの書類を作成してもらう事になります。

基本手当を受給する場合

新しい会社を探す場合は、理由は定年退職ですが、他の一般の労働者と同様に雇用保険の基本手当を受給することが出来ます。

基本手当を受給することが出来る条件

基本手当を受給するためには、以下の条件が必要です。

  1. 失業したが仕事があればいつでも就職できる意思と能力がある。
    意思とは「良い会社があれば仕事をしよう」と積極的に思っている事です。また、能力とは本人の病気やケガ、家族の介護などの諸事情により仕事が出来ない理由がない事を言います。
  2. 会社を辞める日から遡った2年間で、12カ月以上雇用保険に入っていた。
    雇用保険も保険ですので、手当を受給するためには12カ月以上保険に加入している事が必要になります。
  3. ハローワークで手続きをし、その後努力したが失業している。
    最初はハローワークで「求職の申し込み」と呼ばれる手続きをします。その後、就職に向けて最低月2回、就職に関する活動を行います。活動しても就職できない場合は、28日に一度ハローワークで「失業の認定」をして基本手当を受給することになります。

基本手当はいくら受給されるか

基本手当は、離職前180日の間に支給された賃金(賞与は除く)の合計額を180で割った額(「賃金日額」と言います)の45~80%です。
また、60~65歳の場合は賃金日額が15740円以上のとき、支給額が上限である 7083円になります。

賃金日額ごとの基本手当日額(60~64歳)

賃金日額 割合 基本手当日額
2480円以上 4970円未満 80% 1984円 ~ 3975円
4970円以上 10980円以下 80 ~ 45% 3976円 ~ 4941円
10980円超 15740円以下 45% 4941円 ~ 7083円
15740円超 7083円(上限)

基本手当はいつまで受給できるか

基本手当を受給できる日数(「所定給付日数」と言います)は、年齢、雇用保険の被保険者であった期間及び離職理由で決まります。

60歳での定年退職の場合は以下のとおりです。

雇用保険に入っていた期間 所定給付日数
1年以上 10年未満 90日
10年以上 20年未満 120日
20年以上 150日

また、原則として基本手当は離職した日から1年間を超えた場合は、所定給付日数が余っていても給付されなくなります。

退職するときに「すぐに次の仕事をしないでしばらくゆっくりして、それから新しく仕事を探そう」とお考えの場合は、この1年の制限を超えることがあります。この場合はあらかじめハローワークで「受給期間の延長手続き」を行う事で基本手当を受給出来る期間を延長することが可能です。

再就職ができたとき

再就職が出来たときは、さらに手当てが受け取れる可能性があります。以下の2種類のうち、どちらか片方を選択することになります。再就職時の状況を考慮しもらえる額が多いほうを選びましょう。

  1. 高年齢再就職給付金
    給付日数を100日以上残した場合に選択できます。また給付期間は1年間です。
    給付額は、「高年齢雇用継続基本給付金」と同じ額です。
  2. 再就職手当
    給付日数を三分の一以上残した場合に選択できます。基本手当日額(上限4941円)×残日数×60% を手当として一度にもらえます。
    なお、三分の二以上残していた場合は、60%でなく70%にアップします。

雇用保険が受けられない場合

雇用保険は広いサポートがありますが、働き方によっては対象外となる事があります。

独立を目指す場合

雇用保険は、労働者のための保険です。独立を目指した場合は、目指した段階で経営者や事業主にあたると解釈されます。そのためそもそも労働者ではなくなります。従って、雇用保険から給付を受けることはできません。

仕事から完全にリタイヤする場合

雇用保険、特に基本給付は、新しい仕事に就きたいと思って活動いるが仕事に就けない労働者に対する給付です。
仕事から完全にリタイヤした場合は、仕事に就きたいと思って活動している状態ではありません。そのため雇用保険からの給付の対象ではなくなります。

 

FP中根

今回、例等で挙げた金額は毎年見直しがあります。最新情報を必ず確認するようにしてください。

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